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【アメコミ】ワンダーウーマンについて思ったこと

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 昨年映画が公開されて、話題になったり物議をかもしたりしたワンダーウーマンについて。以前書いた駄文を少し修正しながら、思ったことを書きます。
 まぁ、昨年の映画公開時に日本語版主題歌やキャッチフレーズが批判されていたのは、本来ワンダーウーマンが持っていたテーマを、日本の配給会社が全く理解していない という事なんだろうなぁ…と、アメコミ好きとしては少し悲しく見てました。日本のエンターテインメント業界は、ともすれば政治的になるテーマとは距離を置きたがりますし、そういった意味合いもあったのかも。

 

 とはいえ、個人的な見解としては「ワンダーウーマンはすでに歴史的役割を終えている」と、思っているんですが…

 というか、実はそれほど好きなキャラクターでもなかったりします。マーベルのマイティ・ソーもなんですが、神話由来のアメコミキャラクターって、高貴さの表現が「傲慢」に見える部分が多くて、それが嫌なのかもしれません。この辺り、日本とアメリカの文化、宗教観の違いもあるかもしれませんね。

 そもそも、ワンダーウーマンが誕生したのはもう、80年近くも前です。第二次世界大戦のさ中です。

 コミックの中でスーパーマンバットマンなど、男性のみが担ってきた「悪と戦う役割」に、女性も参加したという点では画期的なキャラクターでした。原作者はフェミニズム運動の支持者で、女性の社会参画の象徴としたとも言われます。

 いわゆる「女性的機微」を備えつつも、スーパーマンに匹敵するパワフルさを持ち合わせたキャラクターとして、ワンダーウーマンはコミックの世界に受け入れられ、様々な女性ヒーローの先駆けになります。

 …とはいえ、スーパーマンが「正義」や「故郷」というテーマ性を持って、絶対の普遍性を獲得しているのに対し、ワンダーウーマンの「フェミニズム」は、後進のキャラクターが増えるごとに色あせていくのも確かで…

 今となっては、コミックの世界にも多くの女性ヒーローがいます。DCコミックの世界にもスーパーガールやバットガール、ザターナ、スターファイアー、カタナ。パワーパフガールズも最初はDCでした。ハーレィ・クインは今やそこらの男性ヒーローよりはるかに人気者です(ヒーローと言えるかは別として)。

 「悪と戦うヒーローの物語」における女性の役割は、ヒーローに守ってもらう、か弱い存在というだけではなくなっています。もちろんそこに至るまでは物凄い紆余曲折や試行錯誤、時代時代の変遷がありましたが…全てを語れるほど知識がないところでもあります。

 その先駆けがワンダーウーマンである事に異を唱える人はいないでしょう。

 しかし、時代は移り変わっていきます。

 1996年の出版社対抗クロスオーバー「マーベルvsDC」で、両出版社から5人ずつ代表のヒーローを出してタイマン対決を行い、結果は読者投票で決めるというイベントがありました。

 そこでワンダーウーマンは、X-MENのストームに敗北しています。

 X-MENは新人類(ミュータント)の人種差別問題を描く作品でもあり、ストームは2代目チームリーダーを長く務めたアフリカ出身の黒人女性ヒーローです。

 能力のスペック的にはワンダーウーマンが圧倒的に優位だったのですが、読者支持ではストームに及びませんでした。(他の対決ではスーパーマンはハルクに、バットマンキャプテン・アメリカに、それぞれ勝利しています)

 当時、X-MEN関連タイトルは人気絶頂だったということもありますが、X-MENは伝統的に女性の活躍が目覚ましいチームでもあります。関連チームも含め、チーム内最強キャラは女性であることが多いし、女性リーダーも少なくありません。

 X-MENにおいて「リーダーが女性」ということに特別な感じはありませんでした。人種差別と戦う超能力チームの中に、ジェンダー差別はなく、自然なかたちでチームを率いていたように思います。(むしろ先任者より信頼されるリーダーだったかも)

 そんなストームに(読者支持で)敗北した時、ワンダーウーマンの持っていた役割は終わったように思いました。

 黒人女性が、違和感なくヒーローチームのリーダーを務める時代に、ワンダーウーマンがどんな意味を持てるのでしょうか? 社会の女性参画はまだこれからも重要なことですし、そのシンボルとして「悪と戦うヒーロー」の世界に女性がいることに意味はあると思っていますが、重要なのは先駆者をもてはやすことではなく、今、そこにいるものの実力であるはずです。

 ゆえに、問われているのは、今もなおワンダーウーマンのコミックは面白いのか?という一点です。

 …正直、ワンダーウーマンはこれまで邦訳に恵まれなかったこともあって、ほとんど読んでいないのですが…ジャスティスリーグなどに出演しているのを読んでも、先に述べたようにそんなに魅力的なキャラクターには感じられず…高慢な怪力お姉ちゃんにしか見えなかったんですよね。

 近年、バイセクシャルだったという新設定が加わりましたが、これも二番煎じ。LGBTテーマは、マーベルがタブーを恐れず、挑戦的に切り開いてきたテーマでもありますし。(…スタン・リーは、ほんとに凄い人です)

 映画は、ヒーローのオリジン物としては、いい出来でした。物凄く気を遣って作り込まれた映像は素晴らしいです。ワンダーウーマンのオリジンを語る上で、余計なものも足りないものもないという感じでした。

 ただまぁ…ワンダーウーマンをある程度知っている人には新発見はないなぁ…と。

 バットマン映画で度々見られる、「キャラクター性を損なわずに独自の切り口を見せる」という部分は薄かったように思います。

 映画版はこれから、ジャスティスリーグへと続いて、ワンダーウーマンは新しいポジションを得ていくのでしょうが…今まだ、ワンダーウーマンが新しいものに見えるとしたら、それは大きく変わったコミックの世界と違って、我々の現実が大して変わっていないことの証なのではないでしょうか?…