理想と妄想のジャンクション

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「はあちゃま」が恐ろしい

 Vtuberというものは、メタ要素を含んだフィクションという、面白い世界をYoutube内に構築している。…と、僕は認識している。

 配信内容も、ゲーム実況が圧倒的に多いのだけれど、それぞれが独自の設定を持っていたりする。AIだったりモンスターだったり、騎士だったり、精霊だったりメイドだったり人生2回目だったり…

 最初期は、(ほぼ)ゲーム配信者がゲームと隔絶した設定を持っている事に違和感があった。そこに何の意味付けもないまま配信をしている事が、凄く疑問だった。…最近では慣れ切って、いつの間にか気にならなくなっていたけど。

 (ホロライブの4期生あたりだと、その辺りの設定を活かした部分も見受けられた。ドラゴンであるココ会長なんかは、ホロライブ事務所に落下して事務所を破壊してしまった事を機にアイドルをやる事になったというオリジンを作っている)

 視聴者が配信者の存在をイメージするための動くアイコン…というと、ちょっと言い過ぎかな。

 (個人的には名作SFマンガの「MAPS」を引き合いに出したい。宇宙船「リプミラ号」と頭脳体「リプミラ・グァイス」の関係。Vtuberのガワ(と呼ばれる部分)が、宇宙船で魂(と呼ばれる部分)が頭脳体だ。どちらもリプミラであるが、十全の力を発揮するためには両者が一つでなくてはいけない。そういう存在だと思う)

 

 この2月上旬にVtuberファンの注目を集めたものの一つに、Vtuber赤井はあとの一連の配信がある。

 赤井はあとはVtuberとしては、ベテランの部類に入る。ホロライブ1期生で、配信歴は3年近い。とはいえ、キャラクター付けは薄味だ。公式HPの紹介分も「生意気な後輩。普段はツンツンしているが仲良くなった相手には甘えたりする。赤いリボンとハートが好きで、髪や服によくつけている」という程度。いわゆるツンデレで生意気なキャラクターで、ずっと、そういうキャラとして振る舞っていた。(時々はっちゃけてたけど)

 そんな「赤井はあと」が、昨年物凄い変化を遂げた。

 ツンデレで生意気な後輩キャラクターから脱皮し、自ら考案した「はあちゃま」という愛称を定着させ、配信内容も試行錯誤を繰り返し、汚れキャラ、ネタキャラ的な自分を受け入れ、自虐的な自己プロデュースも平然と敢行した。賛否ある事を理解した上で挑戦的な企画配信をいくつもやった。

 いつしか「はあちゃま」は、頭のおかしいキャラクターとして認知され、「赤井はあとは死に、はあちゃまという怪物に乗っ取られたのだ」というネタが定着するくらいになっていた。

 

 という、前提を踏まえて…2月に「はあちゃま」は配信の中で、突如「赤井はあと」を復活させた。

 「何か気取ってるようで好きじゃなかった」という「おはるーじゅ」という挨拶を使い、しばらく使っていなかった以前の髪形とコスチュームでゲーム実況配信を行ったのだ。

 可愛く清楚な「赤井はあと」の帰還に、ファンは盛り上がった。

 この時点では、どうせすぐに「はあちゃま」に戻るだろうと皆思っていて、気まぐれの視聴者サービスとして、ネタとして盛り上がっていた。

 しかし、翌日も「赤井はあと」が配信を行った。

 更にその翌日も。

 加えて、深夜12時に「はあちゃま」が眠りに入り「赤井はあと」が現れるという状況が提示される。

 ここから急激に展開はホラーになっていく。

 「赤井はあと」と「はあちゃま」は、通常の配信を行いながら、凄絶な肉体の主導権争いを開始するのだ。

 肉体の主導権? いや。そもそも肉体は元々別だったのかもしれない。

 「はあちゃま」は「赤井はあと」を認識しているが、「赤井はあと」は「はあちゃま」を知らない? 忘れている?

 どちらかが相手を「打ち首」にして、自分の身体とつなぎ合わせた?

 謎とともに大量生産されるファンアートを、迅速に物語に取り入れながら、狂気の物語はヒートアップしていく。

 Youtubeのチャンネル名は「Haachama Ch. はあちゃま」から「Akaihaato Ch. 赤井はあと」に変更され、Twitterの登録名も「はあちゃま」から「Akaihaato」に変更された。更にTwitterでは「sister」として自分自身のアカウントを載せ「はあちゃま」と「赤井はあと」の関係を示唆した。

 この突然の展開に、後輩達も明らかな困惑を見せた。ゲーム内で接触した大空スバルさんなど明確に困惑して「手が震えて何て(チャットを)打てばいいか分からない」と言っていたほどだ。

 狂気に満ちたショート動画も連日アップされ、視聴者もくぎ付けにされた。

 最後に勝つのは「赤井はあと」なのか「はあちゃま」なのか。提示された「共存」というキーワードで、本当に平和に終わるのか?

 

 この物語、現時点では一応の区切りは付けられたように見えている。

 チャンネル名も「HAACHAMA Ch. 赤井はあと」に再変更された。

 様々な考察が見られるが、これは、バーチャルな物語という側面と、メタな視点を両立させなければ成立しない、特異な物語として語られるべきだと思う。

 明確な答えはなかったが、「はあちゃま」の中に「赤井はあと」がいるという認識は、間違っていないハズだ。

 

 何よりも我々は「赤井はあと/はあちゃま」というキャラクターを強烈に刻み込まれてしまった。

 彼女が配信を行っている時、「赤井はあと」と共存する「はあちゃま」の物語を意識せずにおれなくなってしまった。

 我々視聴者は、彼女の事を「姉妹の魂を内包し、愛し合い争い合って、今ここにいる少女」として認識させられてしまった。

 それは概要欄にそういう設定が書かれていたからではなく、配信を通じてそれを見せられたからだ。

 これこそVtuberだからこそ可能な事だ。

 

 今回の件は、今後の配信に多大な影響を及ぼす事で、だいぶやり難くなる事も増えるだろう。他の配信者との関係も、これまで通りにはいかないかもしれない。

 それでも、自分で考えて変化を恐れず挑戦を繰り返す彼女は、本当に魅力的だ。

 魅力的で、恐ろしくて、本当に目が離せない。(気が向いたらもう1回書きます)